2026年のロンドン不動産市場は、単純に「好調」あるいは「低迷」といった表現ができる状況ではありません。
中長期的な視点でロンドン不動産への投資を検討する海外投資家にとって重要なのは、短期的なニュースや市場の変動に一喜一憂することではなく、その背景にある構造的な要因を理解することです。
住宅供給の不足、金利と住宅ローン環境、根強い賃貸需要、そしてロンドンという都市そのものが持つ国際的な競争力。こうした要素が、現在の市場を形づくっています。
市場を取り巻くこれらの動きを正しく理解することが、長期的な視点に立った投資判断につながります。
深刻化するロンドンの住宅供給不足
ロンドンでは、依然として十分な数の住宅が供給されていません。民間部門による住宅建設は10年前と比較して大きく減少しており、新築住宅の登録件数も前年を下回る状況が続いています。
その背景には、主に3つの要因があります。
- 建築資材や人件費の上昇による建設コストの増加
- 時間を要する都市計画・開発許可のプロセス
- 建設コストの上昇と購入者の価格負担能力との間で、採算性を慎重に見極めるデベロッパーの姿勢
結果として、ロンドンでは住宅を必要とする人の数に対し、十分な数の新築住宅が供給されていない状況が続いています。
さらに、2026年から2027年に完成する住宅の多くは、2024年から2025年の時点ですでに着工の有無が決まっています。そのため、今後数年間の新築住宅の供給不足は、短期間で解消される問題ではありません。
一方、現在の中古住宅市場では、売却に出される物件数が前年より約13%増加しています。背景のひとつには賃貸市場をめぐる制度変更があり、物件の売却を選択する家主が増えていることが挙げられます。
ただし、これは既存住宅の所有者が変わることによる「供給」であり、新たな住宅が市場に加わるわけではありません。そのため、ロンドンが抱える根本的な住宅不足を解消するものではありません。
海外から英国不動産への投資を検討する際には、この違いを理解しておくことが重要です。住宅供給が限られている市場では、需要が一時的に弱まった局面でも価格の下支え要因となりやすく、また住宅購入が難しい人が賃貸市場にとどまることで、賃料を押し上げる要因にもなります。
金利と住宅ローン環境が購入市場に与える影響
イングランド銀行(Bank of England)は2025年12月に政策金利を3.75%へ引き下げました。その後、2026年半ばまで3.75%に据え置かれており、6月18日の金融政策委員会でも金利は維持されました。
一般的に、金利の低下は住宅市場にとってプラスの材料となります。しかし、2026年前半の市場は、それほど単純ではありません。
インフレ率は依然としてイングランド銀行が目標とする2%を上回っており、今後の追加利下げについては不透明な状況が続いています。
住宅購入者にとっては、政策金利が2024年のピーク時より低下しているとはいえ、住宅価格と借入コストの双方が依然として大きな負担となっています。住宅ローン金利には改善の兆しも見られますが、特に初めて住宅を購入する層にとって、購入のハードルは引き続き高い状況です。
では、なぜこの状況が賃貸市場を支えるのでしょうか。
住宅を購入できない人の多くは、引き続き賃貸住宅に住むことになります。住宅ローンの返済負担が大きくなれば、本来であれば住宅を購入していた層も、想定以上に長く賃貸市場にとどまることになります。
こうした背景から、ロンドンでは賃貸住宅に対する需要が構造的に支えられています。多くの人にとって、住宅を「購入するか、賃貸するか」という自由な選択ではなく、購入が難しいため賃貸を続けざるを得ないという現実も、現在の賃貸需要を支える要因のひとつです。
2026年のロンドン賃貸市場で起きていること
ロンドンの賃貸需要は引き続き安定しています。一方で、賃貸住宅の供給には新たな圧力がかかり始めています。
2026年5月1日に施行されたRenters' Rights Act(賃借人権利法)では、借主保護の強化や、いわゆる「No-fault eviction(理由を示さない立ち退き請求)」の廃止、賃料改定に関するルール変更などが導入されました。
こうした制度変更を受け、一部の小規模家主の中には、賃貸経営を継続するのではなく物件の売却を選択する動きも見られます。
賃貸物件が売却され、その後自己居住用として使用されれば、その住宅は賃貸市場から退出することになります。また、売却活動中に空室となるケースもあり、いずれの場合も賃貸住宅の供給減少につながる可能性があります。
2026年4月までの1年間で英国全体の平均賃料は3.5%上昇しました。ロンドンの上昇率は2%と英国の各地域の中では比較的低い水準だったものの、平均賃料は月額約£2,290と、依然として全国平均を60%以上上回っています。また、5月には前月比で1.7%の上昇が見られました。
Buy-to-Let(賃貸運用を目的とした不動産投資)の観点から見ると、現在の市場にはいくつかの明確な特徴があります。
賃貸需要には構造的な強さがある一方、規制環境の変化を背景に一部の家主が市場から退出することで、賃貸住宅の供給は限られています。また、交通利便性の高いロンドン中心部およびその周辺エリアでは、金融街で働くビジネスパーソンや研究者、海外からの駐在員、留学生などからの安定した賃貸需要があります。
2026年初頭のデータでは、ロンドンのグロス賃貸利回りは、Prime Central London(ロンドン中心部の高級住宅地)で約3%、交通利便性の高い郊外エリアでは6~7%程度と、エリアによって大きな違いがあります。
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ロンドンの住宅価格は現在どの水準にあるのか
英国全体では、5月の平均売出価格が1.2%上昇し、5月としては過去10年間で最も大きな上昇となりました。ロンドンの上昇率は0.8%と比較的緩やかでしたが、成約件数は前年同期比で8%増加しています。一方、英国全体の購入需要は約10%減少しました。
現在、ロンドンの平均住宅価格は約£685,347です。また、初めて住宅を購入するFirst-time Buyer向け物件の平均価格も、初めて£500,000を超えました。
これは、自己資金だけでロンドンの住宅市場に参入しようとする人々にとって、住宅購入のハードルがいかに高くなっているかを示すひとつの指標でもあります。
より長期的な視点で見ると、住宅供給不足という構造的な問題を背景に、今後5年間の住宅価格は緩やかな上昇基調が予想されています。
現在のロンドン市場を支えている大きな要因のひとつは、投機的な需要というよりも、住宅を求める人の数に対して供給される住宅が不足しているという需給構造です。
一方、Kensington、Chelsea、WestminsterなどのPrime Central Londonは、一般的なロンドン市場とは異なる動きを見せています。
これらのエリアの住宅価格は、名目ベースでも依然として2014年のピークを下回る水準にあり、海外投資家にとっては、Brexit以降の長期的な価格調整から完全には回復していない市場に投資できる機会とも捉えられます。
為替面での投資機会や、英国不動産市場が持つ法制度の透明性などを背景に、2026年を通じて海外投資家によるPrime Londonへの投資は徐々に回復していくことが期待されています。
日本人投資家にとっては、ポンド・円(GBP/JPY)の為替レートも重要な要素です。
過去1年間でポンドは円に対して上昇しており、円換算で見るとロンドン不動産の購入価格は以前より高くなっています。一方、ポンド建てで得られる賃料収入も、円換算では同様に為替の影響を受けます。
5年から10年程度の中長期保有を前提とする場合、購入時だけでなく、保有期間中の賃料収入や将来の売却時点まで含め、ポンドと円の為替動向を考慮することが重要です。
Zone 2とミッドマーケットの可能性
ロンドン不動産というと、価格水準が高く、賃貸利回りが比較的低いZone 1やPrime Central Londonに注目が集まりがちです。 しかし、賃貸利回りと中長期的な資産価値のバランスを重視する海外投資家にとっては、ロンドン中心部へのアクセスに優れたZone 2やその周辺エリアも有力な選択肢となります。
Canary Wharf、Nine Elms、Battersea、White Cityなどでは、ビジネスパーソンを中心とした賃貸需要を背景に、安定した賃料の伸びが見られます。
これらのエリアは、ロンドン中心部と比較して購入価格を抑えやすい一方、交通アクセスに優れ、周辺で働く人々を中心に幅広い賃貸需要が期待できるという特徴があります。
特にCanary Wharfは、Elizabeth Lineの開通によって大きく変化しました。ロンドン中心部への所要時間が大幅に短縮されたことで、単なるビジネス街から、居住エリアとしての魅力も高まっています。
また、2022年から2023年にかけての急激な賃料上昇を背景に、中心部の高い賃料を避け、Elizabeth LineやOverground沿線へ居住エリアを広げるテナントも増えました。その結果、以前は中心部から距離があると考えられていたエリアでも、賃貸需要が高まり、賃料の上昇につながっています。
2026年後半に注目すべきポイント
2026年後半に向けて、いくつか注目しておきたいポイントがあります。
イングランド銀行は6月18日の金融政策委員会で、7対2の賛成多数により政策金利を3.75%に据え置きました。インフレ率は依然として目標水準を上回っており、中東情勢に伴うエネルギー価格の影響も懸念されることから、追加利下げの時期については慎重な見方が広がっています。
ただし、住宅購入者にとって重要なのは、固定金利型住宅ローンの金利が政策金利だけで決まるわけではないという点です。固定金利型住宅ローンは市場のスワップレートの影響を強く受けるため、政策金利が据え置かれている状況でも、大手金融機関の一部では固定金利商品の引き下げが始まっています。
また、Renters' Rights Actが施行されたことで、今後数カ月の間に賃貸住宅の供給へどの程度の影響が表れるかも注目されます。家主による市場からの退出が加速すれば、賃貸住宅の供給がさらに減少し、現在の予測を上回る賃料上昇につながる可能性もあります。
中長期的な視点でロンドン不動産への投資を検討する日本人投資家にとって、現在の市場を取り巻くいくつかの要因は、共通した方向性を示しています。
住宅供給の不足は構造的な問題であり、一方で賃貸住宅に対する需要は根強く存在しています。そのため、交通利便性に優れ、安定した賃貸需要が見込める物件を選び、適切な賃貸管理を行うことが、中長期的な不動産運用において引き続き重要となります。
また、ロンドンは世界有数の国際都市として、成熟した不動産市場と透明性の高い法制度を備えています。こうした市場の流動性と透明性は、購入時だけでなく、将来売却を検討する際にも重要な要素となります。